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2023年3月31日(金)


ぐっすり良く寝た。体がかなり疲れている。そして静かだった。

あらためて旅館の中をじっくりと眺めてみる。やはり日本の伝統的な造りは美しい。

木のぬくもり、暖かさ。廊下、階段、障子、そして明かりのとりかた。一つ一つが日本の伝統美だ。


朝食は女将さんの担当らしい。お米がとにかく美味しい。艶があり、モチモチしている。

「ご飯がめちゃくちゃ美味しいですね」と聞くと、「皆さんそうおっしゃいます」

「きっと井戸水で炊いているからだと思います」とのこと。


あまりに美味しく、もちろん御櫃の御代わりだ。そしてコーヒーも美味しい。こちらも御代わりをいただく。

あぁ、朝から何もかも完璧だ。


さらに、お支払いの時には請求書のトレイの下に、お釣りを用意したトレイが用意されている。

お釣りのやり取りでお客様を待たせない、まるで手品を見ているような鮮やかさだ。

きっとこうして支払うだろうから、先にお釣りを用意しておこうという気配り・・・もう参りました。


ツーリング最終日。今日の天気も問題なし。

まずは、気になって仕方がないパスモの処理をしに笠岡駅へ向かう。


さすがにこれだけ大きな街だ、問題ないだろうと駅へ行くが・・・なに? 駅の窓口が皆締まっている・・・

うそだろう? マジか? いったいどこの駅へ行けばいいのですか? なんでこんなに無人なの?

と、諦めて駅を出ようとした瞬間、駅員が現れた。すぐさま捕まえて事情を話すと、窓口を開けてくれた。


なんだよ、中に駅員いるんじゃん。列車の時刻が近づかないと開けないのか?

すぐに窓越しにパスモと乗車記録表を渡して手続きしてもらうが・・・処理がわからないらしい。


「おーい、〇〇くーん、これどうやるんだっけ?」と応援を呼ぶ。なんだよもう一人いるじゃん・・・

こうして、あーして、これ押すんです、なんてやり取りでやっと処理終了。

もう、いったいどんだけの労力を使ったと思ってるんですか、この処理に・・・ブツブツ。


最終日は高低差の少ない海岸線を中心に、瀬戸内の海をたっぷり眺めようというコースだ。

笠岡の街を抜けるとすぐに、笠岡湾干拓地の素晴らしい桜並木に出会った。


どこまでもまっすぐ続く桜並木に、吸い込まれるように寄り道する。

さっそくここでもリモートシャッターの出番だ。これで遊んでいると、すぐに10分、15分過ぎてしまう。


その先、広大な田畑を行くと、後からロードチームが自分を追い抜いて行った。

どうやらここは練習コースになっているようで、信号のない直線を必死に走る姿をずっと見ることができる。

同じ自転車とはいえ、全く世界が違う。ヤダヤダ、あんなに苦しそうに走るなんて・・・


道は広島県に入った。そうか、こんなところまで来てしまったか、と自分でも驚く。

そこからしばらくは、超巨大なJFEスチールの工場を眺めて走ることになる。

日本の基幹産業、重厚長大産業と言われた鉄鋼産業だ。その規模もあきれるほどデカイ。


自転車でいくら走っても工場の終わりがない。まあ自分には興味ある世界だけに見ていて楽しい。

興味ない人にとっては、とんでもないエリアに紛れ込んでしまった感じだろう。


どこを見回しても物流の世界。海には運搬船の数々、陸には大型トラックが並んでいる。

どこで何が作られているのか、何が運ばれているのかさっぱりわからないが、ここが日本経済の重要拠点なのだろう。

もうちょっと、穏やかで美しい海を眺めるつもりだったのだが、前半はそんな呑気な景色はほとんどお目にかかれない。


工場地帯を抜けると、ようやく美しい海岸線に出てきた。ここからは楽しいシーサイドコースの始まりだ。

「ロマンチック街道313」と呼ばれるこの道は、雄大な瀬戸内の海を見ながらのんびりと走ることができる。


昨日はかなり忙しすぎた。今日はのんびり、何も考えずにポタリングしたいと思いながら走っていた。

すると、道路右手に何やらごちゃごちゃと派手なお店が現れた。なんだ、よくある骨董屋か・・・


と、通り過ぎようと思ったら、店内に古い実用車が置いてあるのが目に入った。

おっと、これはひょっとしたらお宝が眠っているかもしれないとすぐに引き返す。そしてさっそく店内に入ってみた。

藤井風のライブで登場したような古い実用車が、どーんと置かれている。なかなかの年代物だ。


すると奥から店主が現れて、いろいろとお話が始まった。

古いものが所狭しと並んでいる。まあ、見ているだけで楽しくなる懐かしい物ばかり。


「何か自転車に関係するものないですか?」と聞くと、昔の電池式のライトを持ってきてくれた。

うーん、ちょっとちがうんだなぁ。でも懐かしいね、このライト。


他にもホーンやサドル、キャリアなんかを出してくれたけど、残念ながら期待のお宝はなかった。

「何年やってるんですか?」「どうやって仕入れているんですか?」「潮風浴びて大変ですよね?」

なんて話から、「ひとつも儲かりませんよ、アハハ」なんて気さくな会話で盛り上がる。


自転車で来ていることを伝えると、今度は外に出て自分の自転車をしげしげと眺め始めた。

いろいろと説明してあげると、


「あ、この空気入れは知ってます。前に見たことあります。」とか、

「このサドルは珍しいですねぇ、見たことがない」とか、

「綺麗に乗ってますね」とお褒めの言葉をいただき、パチパチと両手で拍手をしてくれるほどだった。


すっかりIDEALEに魅了されたようで、危うく売ってくれと言われかねなかった。

サドルとインフレーターを買われては大変なことになるので、いい加減退散することに。

それにしても、こんな場所でこうした商売を続けていることに驚いた。まあ、世の中には色々な人がいるものだ。


しばらく行くと「鞆の浦」という観光名所に到着する。

仙酔島への観光船乗り場があり、ちらほらと旅行客がいる。久しぶりに観光名所に来たので賑やかだ。


観光スポットがいろいろあるようだが、のんびりしている時間はあまりない。

昔ながらの町並みが残った裏通りを、自転車を押しながら散策する。


ここは映画のロケ地にもなったそうで、TVの取材もいろいろと来たらしい。

歩いているとお店の中から、またまたきれいなお姉さんに声をかけられた。


「いかがですか、いろんな種類がありますよ、ちょっと試食してみませんか?」

と言われて食べてみると、うまい! こりゃ帰りの列車のつまみにしてもいい、とさっそくお買い上げ。

この店でアナウンサーの水卜ちゃんがアイスを食べたとか、いろいろ楽しい話で盛り上がった。


気分はすっかり海沿いの観光地を巡るポタリングになってきた。

平坦な道が続き、晴れた空と雄大な海を眺めながらのご機嫌な時間が続く。


町の中に入るとこんな信号機が現れた。なんと、2色のみの信号だ。初めて見たが、これでいい。問題ない。

そして路面にはとうとう「尾道」の文字が現れた。そうか、もう尾道も目の前なのか・・・

尾道・・・また行きたいなぁ。最高に素敵な街ですよね。もう、目と鼻の先かぁ。


海岸から一旦離れ、半島の山中を登っていくと「阿伏兎隧道」のトンネルが現れる。

難しい字で、いったい何と読むのかとわからなかった。(あぶとずいどう)


地名の由来は、半島南端にある阿伏兎岬によるらしい。それにしても難しい地名だ。

下りも急勾配。こんな凄い標識でサイクリストに警告している。(前転しそう〜!)


海面すれすれまで下ってくると、もうそこは「しまなみ海道」を思い出す眺めだ。

一島一島巡ったしまなみ海道の旅は最高だった。やっぱり島めぐりの旅は素晴らしい。


この瀬戸内海の眺めと、島と島を結ぶ橋を見ていると、やはりしまなみ海道の雰囲気だ。

とにかく海が碧い。きれいだ。美しい。そして空が広い、青い。やっぱりたまらないな、この眺めは。


素敵な眺めを拝みながら簡単な昼食だ。残っていたきびだんごを再びいただく。

すると眼光鋭いこいつが、このおいしいきびだんごを狙っている。

家来にしてあげようかと思ったが、あまり役に立ちそうもないので全部食べきってしまった。ゴメンネ。


ここから最後の島めぐりが始まる。「田島」と「横島」をぐるっと一周する。

やはり島は一周しないとダメ。一周して、色々な場所からの景色を眺めないと。


立派な内海大橋を渡ると「田島」に入る。橋からの眺めはしまなみ海道とほとんど変わらない。

橋一つで島から島へ移動できるのだから、やはり橋の有難さをあらためて感じる。


こんなローカルな島を走ろう、なんてサイクリストはなかなかいないだろう。

特に何か有名な観光名所があるわけでもない。逆に何もないから手つかずの自然が残っている。

時計回りに「田島」から「横島」へ。そして再び内海大橋へ戻ってくる。


島の道はなかなかワイルドだ。車で走るための最低限の道なので、自転車にとっては厳しい登りもある。

意外とアップダウンが多く、苦労した割には得るものが少ない、なんて場合もある。

それでも島を一周すると、その島の特徴、魅力が伝わってくる。やっぱり島めぐりは自転車がいい。


どこへ行くのでしょう? のんびりと自転車を漕ぐ、唯一見つけた”サイクリスト”。最高だね、おじさん!

こんな景色をずっと眺めていると、まったく別の国に来たような錯覚に陥る。


眩しい。何もかも眩しく輝いている。久しぶりだ、これだけのんびりとした気持ちで走れるのも。

峠越えや林道では、常に危険と緊張の連続だ。何も考えず、ボケーとできるのは、やはりこうした眺めだろう。


瀬戸内海は本当に穏やかだ。波一つない、きれいな海面がずーっと広がっている。

こんな天気では、厳しさを何も感じないし緊張感もほとんどない。こんなツーリングもたまにはいい。


いよいよこの旅も終盤に近づいてきた。最後は造船の町を通り抜けながらゴールを目指す。

「常石造船」の名前が至る所に目立つ。周囲は何もかも常石グループの町だ。

製鉄所のデカさも桁違いだが、造船所のデカさも物凄い。道路のすぐ横で造られる船の大きさに驚愕する。


日本を代表する「製鉄」「造船」。何だかこのツーリングは多くの社会勉強をした気分だった。

こうしてみてくると、まだまだ日本の産業は元気だと肌で感じる。ツーリングって、勉強になりますね。


16:57 松永駅到着。3日間の旅も、何事もなく無事に終了した。

帰りの列車もすでに手配済み。余裕を持って松永駅から福山駅へ移動する。


そして、最後に待ち構えていてくれたのが、福山駅新幹線ホームからのこの絶景だ。

フィナーレを飾ってくれる、福山城を背景に沈む夕陽だ。あまりの素敵な演出に、もう涙が流れそうだった。


何もかも100点満点の3日間だった。文句なし、悪いとこなし、素晴らしいの一言だった。

やはり綿密なプランニングと、恵まれた好天。そして的確な判断のおかげであると思っている。


昨年に続き瀬戸内・山陽エリアを走ったが、なかなか奥が深い。まだまだ広大なエリアが残されている。

これはしばらく通い詰めないとならないな、と感じるばかりであった。

最後は、「たこめし」、「ほたるいか」を味わいながら、この旅を振り返った。

 

距離: 83.2 km
所要時間: 7 時間 43分
平均速度: 毎時 10.7 km
最小標高:  2m
最大標高:  127m
累積標高(登り):  504m
累積標高(下り):  469m

(2023/3/31 走行)


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