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2023年3月30日(木)


宿のお土産コーナーが充実していて、いろいろと目移りしてしまう。

まずは「きびだんご」を本日のおやつ用に買って、あとは自宅用にいろいろと選ぶ。

「小学校カレー」はテレビでも紹介された有名なレトルトカレーだ。


総社市にある小学校の"給食カレー"を再現したものだが、全部で17種類もあるらしい。

以前、テレビで市長が食べてどこの小学校か当てる企画を見たが、一つも当たらなかったというオチ。

全部買いたいところだが、適当に5、6個選んで宅急便で発送した。(羽田空港に自動販売機があるらしい)


岡山ツーリング2日目。今日が一番ハードコースだ。

走行距離73km、8つの峠越えと、この旅一番のメインイベントである「里庄町聖地めぐり」が待っている。

全てを走り切れるかどうか自信がない。まあその場で臨機応変に予定を変更するとしよう。


今日も快晴。天気予報に全く嘘がない。

スタートは昨日最後に登りつめた急坂を降りていく。さっそく桜並木がお出迎えだ。


新本川に出ると、なんとも素敵な土手沿いのプロムナードコースが続いている。

前半の始まりは、まずこんなのんびりとした景色から始まった。


岡山の峠5 「槇が峠(標高208m)


本日最初の峠、槇が峠へ向かう。川から離れると、次第に道は奥深く山中に向かっていく。

すっかり交通量もなくなり、一人寂しく竹林の中に入っていく。


竹のトンネルと思えるほど、無数の竹が覆いかぶさるように生い茂っている。

見事なまでの竹の美しさに感動していると、勾配も徐々にきつくなってくる。

静寂な峠路に小鳥のさえずりだけが響き渡る。なかなか雰囲気のいい峠道だ。


槇が峠は、車道から分岐して少々奥に入ったところに地図上では存在している。

すぐに右カーブの小さなピークが現れたので、ここが峠に違いないと写真を撮る。


この峠も何もないか・・・と諦めていたが、その先に行くと小さなお地蔵さまが置かれていた。

槇が峠の名前はないが、やっぱりこちらの方が峠らしい雰囲気だ。


この場所から道は二手に分れていて、どちらも抜けることが出来そうだ。

このまま南下して下っていくのもありだが、次の峠へ向かうため、分岐地点の車道まで戻る。


岡山の峠6 「新本峠(標高269m)


全く交通量はないが、路面はかなり広くて走りやすい。そして次の新本峠まではあっと言う間であった。

この峠のピークは「矢掛町」「総社市」の境になっている。


山の中の道としてはかなり道幅が広く、車も駐車できるスペースがある。

きっとここからハイキングに行く人がいるのだろうと思われる。


今日の峠越えは、なかなかいいスタートだ。雰囲気のいい峠をいきなり二つも味わえた。

気持ちよく下っていくと、これまた絶景の桜並木のお目見えだ。


どこからどうやって撮影しようかといろいろやってると、通り過ぎた車がUターンしてきた。

あまりの美しさに、写真を撮りたくて戻ってきたようだ。


岡山の峠7 「藤ヶ峠(標高178m)


本日3つ目の峠は少々危険な予感がする。

藤ケ峠はトンネルが通っているが、旧道もしっかりと道が残っている。


ここは旧道を一つ越えたいな・・・と事前に計画していた。

Googleストリートビューで見ても、なんとか行けそうな感じだったので、さっそくチャレンジ!

のつもりだったのだが・・・いきなりの激坂、荒れた山道、見通せないルート・・・時間がなくなる・・・


ということで、簡単に諦める。ここで体力を使い果たすわけにはいかない。

そして時間に余裕を持って里庄町へ辿り着かなければならない。ここはトンネル越えで我慢しよう。


トンネルを抜けて、反対側の旧道から行ってみるか・・・と覗いてみるが、やはりこちらも無理。

素直にトンネルを再度戻って、次の峠へ向かう。


そろそろ空腹に。本日のコース、途中で食料を仕入れる場所が限られる。

事前にコンビニの場所をチェックしてきたが、途中で弁当販売の看板を見つけた。

やはり周辺の人たちも買い物事情に困っているのだろう。弁当の配達もしているようだ。


さっそく覗いてみると、かわいいお姉さん二人が忙しそうに切り盛りしている。

すでに残りは3つほど。選んでる余裕もないので本日のおすすめ弁当を買う。

こんな所で食料が手に入るとは思ってもいなかったので、かなり助かった。


岡山の峠8 「ましわら峠(標高55m)


食料が手に入れば一安心。適当な場所を見つけてお昼ごはんにしよう。

次に向かったのが、ましわら峠。この峠は地図上には記載がない。

「おかやまの峠」を読んでいると、「富・地蔵・杉峠」の地図に記載がある。


”ましわら”とはいったいどういう意味なのであろうか? 調べても全くわからない。

「富・地蔵・杉峠」の紹介は実に詳しく丁寧に書かれている。この3つの峠の歴史的役割はかなり重要だ。

物流の”大動脈”であり、町の暮らしと発展に大きく影響してきた。


この3つの峠は何としてもすべて越えてみたいと思っていたが、なかなか一筆書きのコース作りは難しい。

現在のましわら峠は、立派な車道の小さな坂を登り切った所にある。

まさかここが「峠」だとは誰も思わないだろう。念のために周辺を探したが、峠らしきものは何もなかった。

ましわら峠(写真 下)


時刻は12時。2時には里庄町に入りたい。

これから「富・地蔵・杉峠」3つの峠を越えるのはほぼ不可能な時間だ。

まずは腹ごしらえをして、再度プランニングのし直しだ。


残念であるが、大事な富峠を諦めて地蔵峠へ向かう。途中の洞松寺の山門で桜を眺めながら昼食にする。

やっぱり今日のプランは無謀だったが・・・さすがにいくつも峠を越えるには時間的に無理だ。

富峠を越えると、かなり遠回りになるため仕方がないだろう。


先ほど買ったお弁当だけでは少々物足らないので、ここで「きびだんご」をいただく。

一つ食べると止まらなくなる素朴なおいしさ。半分残して、また後で食べましょう!


岡山の峠9 「地蔵峠(標高278m)


富峠をパスしたおかげで多少余裕が出きたが、この地蔵峠が今日の登りのハイライトになりそうだ。

標高差約250m。なんてことはない標高差であるが、すでに疲労もかなり溜まっている。


100m登るのが結構辛くなってきた。それでもギヤ比1以下の巨大ローギヤのおかげで降りずに済む。

やはり辛い登りでも、降りずに漕ぎ続けられる方が時間短縮になる。

一度降りてしまうと、どうしても小さな休憩の連続になってしまう。


気温24℃、なんとか登り切った地蔵峠。

額から汗が流れ落ちる中、目の前に峠のピークが明るく見え始めた。


地蔵峠は、今回の峠越えで一番立派な案内が用意されていた。

小屋の中に大きな地蔵尊が祀られ、その由来と立派な記念碑が置かれている。


地蔵尊由来

遙照山と竹林寺山の間に位置する、ここ地蔵峠は、古くより西国街道(矢掛)へ抜ける重要な道であったが、幾重にも曲がりくねった越え難い難所でもあった。

旅人を狙った追剥等もしばしば出没し、中には命を落とす者もあったと伝えられ、山中にはその墓も残っている。 この法界地蔵は、そういった無縁仏を供養するために建てられたと考えられる。

刻字によると、建立は寛政三年八月十二日、願主浄心、施主笠岡花屋武兵衛とある。
花屋という屋号は、笠岡の庄屋の一つとして小田郡誌に登場することから、武兵衛もその一人であろう。

 また、願主浄心については、手がかりとなる記録は何もないが、「是ヨリ西竹林寺十三丁」という案内がわざわざ刻んであることから、菩提山竹林寺に居住していた僧侶の一人ではないかと推測される。

竹林寺は天台宗の寺院で、遙照山(養子山) 厳蓮寺と並んで栄え、僧坊も相当数あったが、寛文年間に藩主池田光政公の寺社整理政策に遭い、廃寺となった。

地蔵建立は、廃寺から百年以上後であるが、元々が密教の流れを汲む山上仏教であったことから、実際には修行に訪れる僧が後を断たず、この法界地蔵はその道案内も兼ねていたと思われる。

いずれにせよ、二百年以上に亘ってこの峠を見守り続けてこられた地蔵尊に深い感謝と畏敬の念を表したい。



時刻は13:20 結構いい時間になってしまった。14時に里庄町に入るためには、次の杉峠も行けそうもない。

残念だが、富峠に続いて杉峠もパスすることにした。

 


”聖地巡礼 藤井風の故郷を巡る” 岡山県浅口郡里庄町

ここからは、しばらく自転車の話から離れますのでご了承下さい


さて、いよいよ今回の旅の”メインイベント”、里庄町聖地巡りだ。

岡山県浅口郡里庄町、全く無名だったこの小さな田舎町が、「藤井風」というミュージシャンによって一躍有名になった。

紅白への出場をはじめ、もはや全世界レベルの日本を代表するミュージシャンだ。


彼の音楽を高く評価するアーティストが実に多い。それだけのパファーマンスを持った若者だ。

初めて聞いた曲で衝撃を受け、夫婦そろって「藤井風」の大ファンになり何度もライブを観に行った。

何度見に行ってもその完成度の高さに鳥肌が立つほどだ。それほど惚れこんでいる。


地元も相当な熱の入れようで、町のホームページでは「藤井風」情報が掲載されている。

彼の登場は町自体を激変させ、一躍全国並みの知名度を得ることになった。

訪れるファンの数も物凄く、やがて「藤井風」聖地巡りがブームになった。


ファンにとって、「推し」の故郷を訪れたい、同じ景色を見てみたい、育った環境を感じたい、同じものを見たい・・・

もう何でもいいから行ってみたい、というのが正直な気持ちだろう。

自分も、あれだけの才能を生んだ里庄町というところは、いったいどんな所なのか非常に興味があった。


藤井風の音楽は幅広い。全ては幼いころからの父親の影響のようだ。クラシック、JAZZが底辺にあるのだろう。

様々な年代に感動と喜びを与え続ける、才能あふれる素晴らしいミュージシャンだ。


いくらファンであっても、なかなか遠路はるばるこの地まで足を運ぶことは容易ではない。

そこがサイクリストの特権だ。ちょっとしたツーリングと組み合わせれば、いとも簡単に旅を作り上げられる。

さらに、聖地巡りには自転車が最適。町の中を走り回るには、自転車が最強の交通手段だ。


そんな利点をフルに生かして、いよいよ里庄町に入ってきた。時刻は14時過ぎ。予定通りだ。

最初に「里庄」の文字を見つけたのは、ゴミ収集車。こんな出会いでさえ感動する。

続いて「里庄幼稚園」。藤井風本人とは全く無関係だと思うが、これでもまた感激だ。


「里庄変電所」の大きな文字は、何だかわからないけれど嬉しくなる。

それにしても、里庄町の人々はとにかく挨拶が素晴らしい。

立ち話中の主婦が、自分の姿を見て「こんにちわ」と言ってきてくれる。


すれ違った小学生が、大きな声で「こんにちわ」と挨拶してくれる。なんなんだ、この町の優しさは・・・

楽曲「旅路」のミュージックビデオは、ここ里庄町で撮影された。

つばきの丘公園はそのロケ地の一つ。まずはここから聖地めぐりのスタートだ。


異常な騒ぎは収まったようだが、それでもチラホラとファンの姿が見える。

ほとんどが若い女性だが、中には自分と同じような年配の男性や夫婦、家族連れもいる。

皆、”海の見える丘”を目指して登っていく。結構つらい登りだ。


大阪から来た女性2人組とお話して、同じ世界の話題に話が弾む。行ったライブ一緒でしたね〜なんて。

”海の見える丘”から、里庄町の全景が見える。気持ちがいいほどの開放感だ。


どこまでも広い”空”、遠くに見える”海”、大きく広がる”陸”、そして心地いい”風”。

藤井風は4人兄弟の末っ子。子供たちに「空」「海」「陸」「風」と名づけた理由がここにあるのかもしれない。


続いて定番通りに、藤井風の母校を訪ねる。大きなグラウンドがある「里庄中学校」だ。

春休みなので誰もいないようだ。校門で写真を撮っていると、塾帰りの生徒にジロジロと見られてしまった。

こんなファンの姿はいやというほど見てきただろうが、自転車のおじさんは相当珍しいだろう。


中学校の目の前が「里庄町役場」だ。ここは必ず行かなければいけない。

里庄町のマスコットキャラクターである「里ちゃん」と「まこりん」のオリジナルグッズを、企画商工課窓口で販売している。

行ったら絶対買ってきて、とお願いされているので、用もないのに町役場に入っていく。


すでに女性グループが買い物を済ませて帰る所で、他にも年配の夫婦もやってきた。

中に入るとグッズコーナーが設けられていて、色々なパンフレットも置かれている。

何を買ったらいいのかよくわからなかったが、さすがです、そんな人のためにセットになった袋入りが用意されていた。


おかげで、これと、これと、これを皆2つ下さい、というと、「あ、ありがとうございます!」と感激の様子。

町にとってもいい収入になることでしょう、ほんの10分ほどで1万円の売り上げ〜でした。


ついでに役場の人に一つお願いしてきたことが・・・

「里庄町は泊まるところがほとんどなくて困りました・・・」「宿泊施設を整備してくださいよ・・・」

まあ、何も観光するところもない田舎町だから仕方がないけれど、これを機に町も変わるかもしれない。


さて、大きな荷物を持って郵便局へ向かう。

役場からすぐのところに「里庄郵便局」がある。外観はよくある田舎の郵便局なのだが・・・


入ってみると、壁一面が「藤井風」コーナーになっている。その徹底ぶりが凄い。

こんな郵便局他にある? って感じの展示物が並ぶ。直筆のサインや手紙なども置かれている。


何か販売しているんですか?と聞くと、販売は何もないとのこと。

ここを訪れるファンは、ただこれを見るために郵便局を訪れるのだろう。

郵便局の方も、その都度対応するため本当に大変だ。しかし、その優しさがこの町の魅力だろう。


80サイズの箱を買って、町役場で手に入れた貴重なグッズを梱包する。

なんだかんだ、こんなことをしているとすぐに1時間以上も経過する。やっぱり早くきて正解だった。

よし、これで頼まれた買い物は終了だ。あとは安心して聖地巡りができる。


ナビに聖地の場所を登録してきた。まずはミュージックビデオに登場した「ファイン」で記念撮影。

ここでもよく買い物をしたのだろうな。試しに中に入ってみる。まあよくあるドラッグストアの感じだ。

続いて里庄駅脇の歩道橋。ここも撮影ポイントだ。この階段を登っていく姿が映っている。


そしてJR里庄駅。小さな田舎のローカル駅だ。女性ファンが次の列車を待っていた。

そして「マカレ」というレストラン。かつてここでライブも行ったそうだ。

外の手すりにはファンの方からの無数のメッセージが括り付けられていた。


続いて向かったのが「しゅろの木」。ビデオの中で藤井風が抱きついている1本の大きな木だ。

しっかりと場所をナビに登録してきたのだが、少々ずれていたようだ。探しても探しても見つからない。

近くの神社で子供たちが遊んでいたのでちょっと聞いてみた。


「ねえ、この辺に、藤井風君のビデオに出てた大きな木があるの知ってる?」

「知らなーい」とあっさり・・・変なおじさんがいきなりやってきたので、子供たち皆ビックリしていた。

仕方ない、記念に桜の木でも一枚撮っておいた。クソー、悔しいなぁ・・・倒れちゃったのかなぁ?


悔しくて悔しくて、帰宅してからGoogleストリートビューで調べたら、その神社の真後ろ側に立っていた・・・

一本の細い木だから、周囲の風景に溶け込んで、遠くから見ると気が付かなかった・・・惜しい、残念でした。


そしていよいよ聖地巡りも佳境に入る。藤井風の実家「ミッチャム」と「小野酒店」へ向かう。

小野酒店は、藤井風が小さい頃からよく買い物に来たという近所の酒屋だ。

酒屋と言っても、魚・野菜・生活雑貨など何でも揃っている町のスーパーだ。


店の方に聞くと、よく回覧板を持ってきて、そのついでに買い物をしていったとのこと。

店内には無数の藤井風グッズが展示されていて、ちょっとしたミュージアムに匹敵するほどだ。(凄いです)

写真撮影はOKだが、ネット掲載は禁止ということでお店の写真だけでご勘弁下さい。


こちらが店主。外で作業している所で立ち話をさせていただいた。

幼少の頃の話を色々と聞くことができた。「天才はやっぱり違うわ!」という言葉がとにかく印象的だった。


そしてあまりにも有名な喫茶店「ミッチャム」。ここが藤井風の実家だ。

こちらが車道側からの眺め、そして住宅地側へ行くと入口がある。


すでに閉店して営業はしておらず、店の入口には達筆の文字で「おわび」が書かれていた。

ファンにとっては、生まれ育った、そして藤井風の原点を見れるとあって、さぞかし賑わったことだろう。


店の窓はご厚意により少々カーテンが開けてあり、中の様子を覗くことができる。

あのピアノで藤井風は音楽を作り続けてきたのか・・・じっと見ているとピアノを弾く後姿が見えた気がした。


感激だ。ぞくぞくするほど胸が高鳴った。誰もいない、静かな景色だからこそ、より想像力が豊かになる。

生で聴けたらどれだけ感激するだろう。もう、今となってはあり得ない夢物語。


あまりジロジロと家の中を覗いているのも迷惑な話だ。近所の住民もこちらを見て通り過ぎて行く。

この時間、ファンは誰もいなかったが、ピークの時は果たしてどんな騒ぎだったのだろうか。

お店を閉店してしまったのも仕方がないだろう。あまりにも環境が変わりすぎてしまった。


そして最後に訪れたのがこの会社、「萩原工業株式会社」。

ブルーシートでお馴染みの、樹脂繊維製品などを手がけているプライム市場の上場会社だ。

実はこのツーリングの1週間ほど前、東京のある催しでこの会社の社長とお話しする機会があった。


来週、里庄町へ行くんですよ、と話したら驚いて、「ぜひ工場を見てって下さい」と話してくれた。

「私がその時工場にいたら、里庄をご案内しますよ」なんて嬉しいお言葉までいただいた。


「ミッチャムは歩いて5分の所にあり、私もよく通ったんですよ」ですって!

ここでもまた聖地巡りと繋がって、なんとか工場の写真でもと思って最後にやって来た。


さすがにもう終業まじかの時間に会社を訪問するわけにいかず、写真を撮るだけにとどめておいた。

次回、また社長にお会いする機会があれば、思い出話としてとっておこう。

里庄町巡りはここまでです


岡山の峠10 「鳥ノ江峠(標高113m)


時刻は16:40 すっかりいい時間になってしまった。聖地巡りに2時間半も没頭していた。

頭をすっかり切り替えてツーリングモードに戻す。

今日の予定は、あと峠が一つ残っている。この時間からなら、なんとかギリギリ越えられそうだ。


感動の里庄町を離れ、海を目指して南下する。

すぐに民家もまばらになり、細い道をじわじわと登り始める。


距離は短かったが、最後の峠直下が常識外れの勾配で、このギヤ比でも降りる寸前の勾配だった。

心臓がバクバクいいながら峠の広場に登りつめた。「鳥ノ江峠(113m)」海の見える峠だ。

何もない峠かと思っていたが、大きなトイレまであって逆に驚いてしまった。


峠から海が見えるって素敵だ。なかなかこうした条件が揃う峠は珍しい。

そして夕暮れが近づいて、海の色も空の色も徐々に変化してきた。

さあて、今日のメニューはこれでおしまいだ。あとは宿までフィナーレを楽しもう。


海岸まで下っていくと、ちょうど笠岡港へ向かうフェリーと一緒になった。

狭い運河のような水路を白いフェリーが自分と同じスピードで進んでいく。


どこから来たフェリーなのだろう? 

周囲の地理に詳しくなかったので、こんな所でフェリーを見るとは思っていなかった。


海面が夕日に反射してキラキラと輝いている。逆光を背景に撮影する。

撮影しているとフェリーに追い抜かれる。そしてまた走り出すと追いつく。

フェリーの乗客も、あの自転車とずっと一緒だよ、なんて思って見ていたかもしれない。


笠岡港には全く同時に到着。フェリーからは、通勤帰りの人がぞろぞろと降りてきた。

そうか、このフェリーは他の島との通勤に利用されているのか、と初めてわかった。

フェリーで通勤か・・・やはり、ここは瀬戸内なのかとあらためて気が付く。


17:40 無事に本日の宿に到着。風情のある外観、歴史ある純和風の宿だ。

趣のある宿だとはわかっていたが、この後、この宿の本当の魅力をたっぷりと味わうことになる。


この宿は、ネット検索でも探せず、旅行サイトでも見つからない。

普通に宿を探していてはこの宿に辿り着けない。ではどうやってこの宿を見つけたのか?

実は笠岡駅周辺に泊まりたく、楽天トラベルで探していたのだが、なかなか難しい。


特にこの時期、2食付きの一人旅となると相当難しい。

できれば2食付きでゆっくりしたい。地元の料理を味わいたい、そう思うのが旅の魅力。

ネット検索で探せない時は、最後の手段、Googleマップから地図上で宿を検索する。


すると、小さな旅館やホテルなどが見つかる場合がある。

運良く見つけたら、Googleストリートビューで様子を伺ってホームページを調べてみる。

ホームページから予約できなければ直接電話して予約する。今回はこうして見つけた「隠れ宿」だ。


「一人ですけど泊まれますか?」と聞くと、「どーぞ、どーぞ、大丈夫ですよ」と暖かい返事。

「3月30日に泊まりたいのですけど・・・」「えーと・・・あー・・・、なんとかなるか・・・、いいですよ!」

どうやら他に泊り客がいるのだろう、いろいろと都合をつけてくれたようで、予約することができた。


「自転車で行きますので、どこか置く場所をお願いします」「はい駐車場がありますので大丈夫ですよ」

「当日、晴れるといいですね!お待ちしております」という涙が出そうな丁寧なお言葉をいただいた。


”晴れるといいですね!”なんて言葉は、いまだかつて宿の人から聞いたことがない。

これだけでこの宿の魅力がわかった気がした。おかげで、快晴に恵まれた一日になった。


数奇屋造り風の落ち着いた雰囲気の玄関を入ると、そこはもう純和風の歴史ある世界。

犬養首相とは親戚にあたるらしく、何度もこの旅館に泊ったらしい。


部屋の至る所に当時の写真が飾られ、送られてきた手紙や調度品がいくつも置かれている。

この旅館は20年前に建て替えられたそうだが、昔からの雰囲気を壊すことなく見事に維持されている。


そして、ここの女将のおもてなしがとにかく素晴らしい。

「最近、一人旅はなかなか泊まるところがないんです」と言うと、

「え? なんででしょう? 私は一人の方のほうが嬉しいです」との答えが帰ってきた。


驚いた。そんなことを言ってくれる女将はには会ったことがない。

「一人だと、何かと効率が悪いじゃないですか。二人以上の方が手間も省けますし・・・」

「全然そんなことありません。だっておひとりだと、ゆっくりお話しできるじゃないですか」ときた。


「2,3人いらっしゃると、忙しくてお構いできないんです」ということらしい。

お迎えしたお客様を丁寧におもてなしするには、一人のほうがいいということらしい・・・あぁ、なんて考えなんだ!

「うわぁ、もう神ですね! ほんと一人旅にとっては最高の宿ですね!」と絶賛。


おかげで、その後の食事も贅沢な時間を過ごさせていただいた。

これほど贅沢な部屋で、日本の歴史に触れながら最高の料理をいただいた。

そして犬養首相をはじめ、ご自身のこと、家族のこと、この土地のこと、いろいろとお話ししていただいた。


なんて素敵な宿なんだ。そしてなんて素敵な女将なんだ。たまたま見つけた宿がこれほどだったとは・・・

「どこの旅行サイトにも登録していないんです。部屋も2つ、3つしかなく、手がまわらなくなってしまいますので」

ちなみにこれまで自転車で来た人はいるのか聞いてみると、道に迷った外人さんがひとりいたが、日本人は自分が初めてだそうだ。


それを聞いてまた感激だ。一人旅に最高の宿を見つけたことに感激する。

誰にも教えたくないほどの宿だ。大人数で行ってはいけない宿だ。一人が最高の宿だろう。

これだけ感動した一日も珍しい。とにかく、何もかも最高に充実した一日だった。

距離: 71.5 km
所要時間: 8 時間 28分 00 秒
平均速度: 毎時 8.4 km
最小標高:  20m
最大標高:  298m
累積標高(登り):  939m
累積標高(下り):  989m

(2023/3/30 走行)


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