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2022年4月5日(火)


平日に、この辺りに泊まりに来るのはほぼ仕事関係の人ばかりだ。観光客、旅人などは全くいない。

朝食もバイキングスタイルで、仕事関係の人は簡単に食事を済ませてさっさと出勤していく。


相変わらずコロナ対策が徹底されていて、従業員も言葉少なめ。手袋をしてバイキング、そして黙食だ。

朝からお通夜みたいな雰囲気で、旅情も何も盛り上がらない。


外へ出ればホテルの前は通勤ラッシュの車で渋滞だ。道路を渡ることさえできない。

”自転車旅”なんて異次元のことをしている奴なんて、この時間帯にはただ一人。

ドライバーからの視線を浴びつつ、車の横を通り過ぎていく。


今日はこの旅のハイライト、一日で10個の峠を越えるハードな一日だ。

標高が低いとはいえ、果たして全て越えられるのか、期待と不安で一杯だ。


 

播磨の峠5 「桜峠(標高57m)


桜峠への道を登り始めると、後からいきなり異様な車に追い抜かれた。

車の窓からは、毛むくじゃらの”物体”が箱乗りしていて、”なんだ?”と呆気にとられる。


近所の住民が大きく手を振って運転手に挨拶している。うわぁ、あれはワンコだ!!

助手席、後部座席から今にもこぼれ落ちそうな体勢で半身の状態で外を眺めている・・・

まじか? 嘘か真か・・・すぐにカメラを構えてなんとか遠景の一枚を収めることができた。衝撃の一瞬だった。


桜峠への道は、早朝の気持ちいい空気の中をじりじりと登っていく。

当初泊まりたかった「星の子館」を通り過ぎると、間もなく桜峠だ。


桜峠も明確なピークはなく、緩やかなカーブ辺りが峠とされている。

だいたいこの辺りだろう、というところで写真を撮る。


峠の地蔵が、自然観察の森の入口に移設されたと本に書いてあったので探しに行く。

広大な自然観察の森だが、そんな地蔵のある気配はどこにもない。

来た道を何度も往復して、しらみつぶしに探したが発見できず・・・なんとか写真を撮りたかったが残念。 


その先の「桜山公園」は、想像を絶する満開の桜に包まれていた。

そしてなんと、さっき通り過ぎて行ったワンコたちの車もここに止まっていた!


車には会社の名前が書いてある。きっとハウスメーカーか何か、そして会社のPRのためのワンコだろうか?

目の前に再び車が現れ、今度こそいい写真を・・とやっと撮ったのがこの一枚。もーなんなんだ、この子たちは!
(帰宅後調べたら 、かなり有名なワンコのようでした。https://ask-re-home.com/chow/)


この公園、なにもかもが絶景で、こっちのアングル、あっちのアングルから写真を撮っていたら声をかけられた 。

「写真撮りましょうか?」と年配の女性。

「いえいえ大丈夫です、ありがとうございます」「しかし、この公園凄いですね!」と自分。


「ほんとキレイ、満開でしょ!」「今日が一番きれいですよ!」「私も●●で、自転車のカフェやってまして・・」と。

なぬ? 自転車のカフェ? 少々気になったものの、ここはおとなしくしておこうと深入りせず。


公園をぐるっと一周する。

とにかくこれ以上幸せな景色はないのではないか、と絶賛するほど美しい公園だ。


座って休んでいると、公園管理の方々が小さなゴミを拾い集めに来た。

「おはようございます」と気軽に挨拶をしてくれる。

なるほど、この公園の美しさはこういうことか、と直感した。とにかく感動の公園だった。



播磨の
峠6 「槻坂
(けやきざか)トンネル(標高75m)


槻坂(けやきざか)峠のトンネルが目の前に見えてきた。物流センターの倉庫脇から旧道が分岐している。

「播磨の峠ものがたり」を見ると、旧峠への山道と写真が掲載されている。

この峠はちょっと手強そうかな? と思いつつ物流センターの横を登っていく。


倉庫の従業員がこちらを見て驚いた様子・・・そうでしょう、こんな旧峠を行くおバカさんはいないですよね。

すぐに目の前に「関係者以外立ち入禁止」のゲートが現れた。そしてその先は藪の中だ・・・

まあ、こんなことはよくあること。鍵もかかっていないので、さっそく中へ入ってみる。


10mも進まないうちに、目の前にコンクリートの壁が現れた。なんだ?これは?

上を見ると「槻坂隧道」の文字がしっかり見える。

ちょっと後ろに下がって再度全体を見渡すと、これが旧道のトンネルだとようやく分かった。


トンネルが完全にコンクリートで塞がれ、草で覆われているのでわからなかった。

こんなトンネル封鎖の光景は初めてなので理解に苦しむばかり。なんでこんなことに・・・

ひょっとして横から入れる? はずもなく、中を覗くことも不可能。虫一匹入れそうもなかった。


あまりのショックに、しばしその場で呆然としていた。

この上を行く道があるのか? と上空を見上げるがそんな気配はない。

戻るしかない・・・と再び先ほどの倉庫脇へ戻ってくる。そんな姿を再び見られて恥ずかしいばかり。


本をよく読めば、旧トンネルは現在封鎖されていると書いてあるではないか・・・もう、ちゃんと読め。

結局、新トンネルを行くしかない。

新槻坂トンネルは、歩道が車道ぐらいの幅があり、非常に快適だ。歩行者、自転車への配慮がとても感じられる。


悔しいので、トンネルを越えた反対側から再度旧道を行くと、こちらもやはりゲートで完全封鎖であった。

こういうことがあるから今日の峠越えは不安で一杯だ。

まあ、それでもたいした時間ロスにはならなかったので、気を取り直し次の峠へ向かう。



播磨の
峠7 「追分峠(標高83m)


一つの峠を越えると、次の峠までは多少の距離があって、次々とドラマが展開していく感じだ。

一日かけての峠越えと比べて、ショートコースを何回も繰り返すという変わった楽しみ方だ。


次の追分峠までは多少距離があったので、しばしの間ポタリング感覚だ。

ちょっとした東屋で小休止。池を眺め、鳥を眺め、太陽光発電が多い田畑を登っていく。


追分峠の登りに入る。この峠は本格的な峠越えの雰囲気が漂ってくる。

狭い農道を行くと、急激に勾配がきつくなる。路面もこんな水切りが掘ってあるほどだ。


ガーミンの峠位置を目指して登っていくと、山道の分岐が現れた。

左は少々下って山の中へ、右はさらに登って発電設備が見える。

道筋が不明のため、自転車をその場において調査開始だ。


まだ登らないとならないので当然右だろう、と行くと再びゲート封鎖だ。

ゲートは開けることはできるが、その先は竹藪が広がっていて、人間一人が入っていくのさえ厳しい。

この道が正解だとしても、さすがにここを自転車で行くことは狂気の沙汰だ。


戻って左の道を調べるが、すぐに行き止まり。うわ、どうなってるんだ?

やっぱりあの竹藪を行かないとダメなのか・・・と連続で諦めざるをえない状況に意気消沈。


しかたない、迂回して次の峠へ期待しようと下っていくと、別の道が伸びているではないか!

こっちはご覧の通りの快適なハイキング道。あまりの違いに笑ってしまうほどだった。

どうやらほんのわずか目指す道筋が違っていたようだ。誰かに聞けば簡単なことだったが、誰もいなかった。


こんな芝生みたいな道が現れてご機嫌になったのも束の間、すぐに道は荒れ放題になってきた。

まあ誰も利用しないのだろう、なんとか歩ける状態だが全く手入れはされていない。


明るい日差しが差し込むので恐怖感はないが、これで暗ければかなり恐ろしい山道だろう。

バリバリと音を立てながら倒木を踏み歩いて進んでいくと、またまたゲートの登場だ。


ここが追分峠のピークだ。

ゲートは簡単に開けることができ、自転車も難なく通過することができた。


こんな峠越えも久しぶりで、この竹藪の眺めもなかなか”新鮮”な光景だ。

さすがにここを歩く人は皆無だろう。本によれば、1960年頃はまだ徒歩・自転車も利用していたとある。


下りは落葉や腐った枝木で、フワフワのクッション状態だ。

楽しく下って行くと正面に舗装路が見えてきた。そして出口のゲートが行く手を塞ぐ。


おや? 鍵がない? なに? 出れない? 横も抜けられない・・・何だって? 

よーく見ればすぐに見つけられたのだが、反対側にこんな形で鍵が設置されていたので全く見えなかった。

最悪、自転車をバラして上を乗り越えようかとも考えていたのでホッとした。


いやはや・・・この峠はかなり苦労した。でもなかなかワイルドで、楽しい峠越えだった。


まさかこの峠を越えようという物好きはいないと思うが、参考のために峠付近の地図を掲載しておく。

分岐から戻って、池の横を行くと追分峠への道に出ることができる。



播磨の
峠8 「床坂峠(標高49m)


次の峠、床坂峠へ向かう途中に菅生川という小さな川があった。

ここの川も桜並木が素晴らしく、もう立ち止まざるをえない。もう、どこもかしこも桜、桜、桜・・・


車道を避け、団地の裏手から床坂峠へ出る。大きな通りのピークが床坂峠だ。

峠の標識はなにもなく、小高い丘を越えていくといった感じだ。


歩道がやたらと広く、かなりこの道は拡張工事が行われた感じだ。

ちょうど反対側を一人の女性が自転車でこの峠を登ってくるところだった。



播磨の
峠9 「清水峠(標高127m)


床坂峠を下って、姫路工学キャンパス前を右折する。

しばらく行くと、昨日最後に走った夢前川に再び戻ってきた。相変わらずこの川も桜並木が延々と続く。


川の土手には、最高の花見日和に誘われて、年配の方たちがちょうどお昼ご飯を楽しんでいる。

自分も適当な場所を探していると、誰もいない絶好の土手沿いの道を発見した。


絶好の撮影ポイント、そしてランチタイムに最適なロケーションだ。

贅沢な眺めを独り占めし、リモコンシャッターを思う存分楽しむ。


どうでしょう、この一枚。こんな写真はセルタイマーだけではまず不可能だ。

何枚か撮って、納得いく一枚が出来上がった。リモコンシャッターって、素晴らしい。


夢前川から離れ、清水峠へ向かう。この峠は本には掲載されていない峠だ。

食後なので満腹でお腹が苦しい。


この峠は綺麗な舗装路の小さな峠だが、結構勾配がきつくて登りごたえがあった。

交通量は少なく、静かなひとときを味わえる峠だ。



播磨の峠10 「小屋谷峠
(標高103m)


小屋谷峠への道筋はごく普通の緩い勾配だった。

この峠もピーク感はあまりない。10%勾配の標識が唯一峠らしさを示している。


ここの道路も歩道がとても広い。これだけ広ければ、車道を走ろうという気にもならない。

兵庫県の道路はどこも歩行者・自転車の安全を考え、優しい道づくりをしていると感じる。



播磨の峠11 「暮坂峠
(標高179m)


再び夢前川に戻ってくると、派手な色の、かなり朽ちた三菱重工のバスが土手に置かれていた。

周囲の雰囲気にあまりに似合わないので、ちょっとのぞきに行ってみる。

その昔、このあたりに工場があったのだろうか? しかし、どうしてこんな形で放置されているのか不思議でならない。


暮坂峠への登りは、広い道幅で走りやすいが、なかなか厳しい登りが待っている。

しかし車もほとんど来ないので、静かな峠越えの雰囲気をじっくり味わうことができる。


峠は広々としていてとても明るい。峠のお地蔵さまが、峠の上から見守ってくれている。

標高はわずか179mしかないが、群馬の「暮坂峠」と何となく雰囲気が似た感じがする。

なかなか味のある峠だ。展望はないけれど、ここでゆっくりしていくのもいいだろう。



播磨の峠12 「相坂峠
(標高134m)


暮坂峠のダウンヒルはなかなか素晴らしかった。あまり飛ばしすぎると危険なダウンヒルだ。

まだまだ先は長いので、無理せず慎重に下っていく。


次はこの旅一番のお楽しみ「相坂峠」だ。

播磨へ来ようと思ったきっかけの一つであり、リモコンシャッターを教えてくれた峠だ。

順調にここまで走ってきて、時間的にも余裕があるおかげで落ち着いて走ることができる。


相坂トンネル方面の標識には、巾員2.4mと記されている。乗用車1台分の巾しかない。

交通量は一気にゼロになった。こんな狭い道を好き好んで通る人はまずいないのだろう。

峠のトンネルが近づくと、周囲は竹林に覆われ始め、その先にぽっかりと口を開けたトンネルの姿が見えた。


これだこれだ、このトンネル、この煉瓦、この色、この形だ。

レトロで、なんとも言えぬ素敵なトンネルが目の前に現れた。

確かに狭いトンネルだ。車一台がやっと通過できるほどしかない。


「播磨の峠ものがたり」には以下のように書かれている。

「相坂隧道は大正十年(1921)に、長さ70m、高さ2.9m、幅2.4mで完成した。セメントが貴重な時代、香呂駅近くにあった西播磨煉瓦で製造された煉瓦を7割使い、イギリス積みで積み上げ、村人の人力も借りながら、当時の金額で2万円余の投資で出来た。」


誰も来ないとなればリモコンシャッターの出番だ。ここで同じような写真をぜひ撮りたいと考えていた。

どんなアングルがいいかしばし検討する。残念ながら周囲には高さを稼げる場所がない。

もう少し高い位置からトンネル出口を狙うのがベストなのだが、しかたなくローアングルからの撮影だ。


まずはトンネル手前から、トンネルに入っていく姿を撮影する。

次に、トンネルに入ってから走り抜ける姿を撮影する。


最後に、トンネルから出てくる姿を撮影して終了だ。素晴らしい写真を何枚も撮影できて大満足だ。

上の写真は特に気に入った一枚だ。旨い具合にスピード感溢れる一枚が撮れた。まぐれですね、まったく。

トンネルに自転車を置いただけの写真に比べ、なんて躍動感のある写真が撮れるのだろうと自分でも感激だ。


こんなことずっとやっていたら、なんと車が一台やってきた。

本当にここを通過する車がいることに驚いた。運転手もここはさすがに緊張するだろう。



播磨の峠13 「古坂峠
(標高102m)


ここまで8つの峠を順調に越えてきた。残りあと2つ。

次の古坂峠まではかなり移動しないとならない。しばらくは裏道をつないでのポタリングだ。


せっかくの峠巡りも、交通量の多い車道ばかりでは雰囲気も台無しだ。

できるだけ車の少ない裏道をGPSで探しながら、少々遠回りになっても静かな道を行く。


裏道には生活感が溢れ、町の人、村の人にも出会う。ガーミンのおかげでこんな走りが簡単にできる。

しばし峠越えの登りや緊張感から解放されて、広々とした田畑を眺めながらのんびり行く。

なんて楽しい一日なのだろう。次々と変化があって、ワクワクする時間の連続だ。


相坂峠から1時間半かかって古坂峠にやってきた。

相坂峠の感激で、残念ながらこうした一般道の峠では物足らない。


本で調べると、以前は「古坂トンネル」だったそうだが、歩道がないことからトンネルが撤去されたとなっている。

トンネルが存在していれば、まだ峠の雰囲気を味わえたかもしれないが、今ではその面影もない。


本には旧峠道の地図が書かれているので、せっかくなので調べに行ってみる。

古坂峠を下った先から中国自動車道の下をくぐる小道がある。これが旧峠道らしい。


何やら峠のピークらしい気配が見えるので登っていくと、ここもゲートで封鎖されていた。

今回の峠巡りは、やたらとゲート封鎖に出会う。ということはやはり旧峠道に違いない。



播磨の峠14 「ニケ坂峠
(標高147m)


時刻は16:00 あと峠も1つを残すのみとなった。最後の「ニケ坂峠」も一般的な車道の峠だ。

かなり脚も出来上がってきて、踏み込む力もだいぶ弱ってきた。

最後に辛い峠が残っていなくて助かった。ゆっくり走って、古坂峠から30分でニケ坂峠に到着した。


西脇市と加西市の境が峠となっているが、峠を示す標識はここもない。

交通量が結構あり、写真を撮ると必ず車が写ってしまうというぐらいの交通量だ。

残念ながら、峠の雰囲気を味わうことは出来なかったが、本日の峠越えメニューはこれで無事終了した。



本日の宿まで残り10km。そして1時間ほどの時間が残っている。

今日は朝からずっと走りっぱなし。のんびり一服することもできなかった。


ようやくゴールも見えてきたので、ちょうど見つけた村の小さなベンチを借りてコーヒーをいただく。

暖かいコーヒーが気持ちを落ち着かせてくれる。こうした憩いのひとときが一日の中で必要だ。

ここまで70km以上走ってきた。峠も10越えてきた。そして一日中満開の桜を楽しむことができた。


一日の余韻に浸りながら西脇市のホテルに到着。今日のホテルもビジネスマン中心の宿だ。

仕事終わりの現場作業者たちが、次々と夕食を食べにくる。


ゆっくりご馳走にありつきたいところだが、残念ながら一人旅ではビジネスマンと同じ宿が精一杯。

それでもボリュームある夕食と生ビールでご機嫌だ。


よく走った。そしてよく登った、いくつも越えた。

10の峠を越えるという、自分としては初めての経験であったが、なかなか充実した一日であった。


距離: 78.0 km
所要時間: 9 時間 40分 00 秒
平均速度: 毎時 8.1 km
最小標高:  21m
最大標高:  216m
累積標高(登り):  823m
累積標高(下り):  750m

(2022/4/5 走行)


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