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大急ぎで小豆島を脱出し、高松駅から瀬戸大橋を渡って、岡山へ。さらに伊部(いんべ)駅まで輪行する。

予定では小豆島からフェリーで日生(ひなせ)港へ渡り、そして西片上の宿まで走る予定であった。

気まぐれ台風のおかげで、突然フェリーが欠航になり、ぐるっと遠回りしてやってきた。

午前中の時間は移動で無駄になってしまったが、気持ちを入れ替えて午後のポタリングに変更だ。

さすがにフェリーが欠航するだけのことはあって、駅で組み立てていると強烈な生暖かい風が吹き抜ける。

気を付けないと、いろんな物が吹き飛ばされてしまいそうだ。

まあ、ここまで来れれば宿まではすぐなので、気持ちも楽に走り出す。

雲の流れが速く、青空が見えたり、急に降り出したりと台風特有の荒れた天気だ。

この辺りを走るつもりは全く考えてなかったので、情報が何もない。

20万図と、ポタナビで周回コースを設定して、5時ぐらいには宿に着けるようにコースを考えた。

ちょうど片上湾が周回コースには最適なので、これをぐるりと回って西片上の街へ行くことにした。

いつもなら穏やかな片上湾なのであろうが、この台風の強烈な風で、湾も大きく波打って大荒れだ。

強烈な向かい風が襲い掛かり、この幅広い歩道でもとうとう走れないほどになってきた。

これでは、フェリーはやっぱり無理だった。そして、早い時間に島を出てきたのは正解だったと思った。

風と小雨に悩まされながらも、広く、交通量の少ない道は快適で、まあ、こんなポタリングもいいもんだ、なんて楽しんでいた・・・が・・

さあて、大きな橋がそろそろ近くなってきた頃、ちょうど道の分岐地点に、何やら黄色い注意書きが・・・

スピード出ていたら見逃しちゃうかもしれない、たいして大きな標識ではないが・・・そこにはこんなことが書かれていた・・・

「げげ〜!」「なんですって?」

自転車、歩行者通行禁止って、そりゃ、あんた高速道路か、有料道路? じゃありませんか!

どこにそんな道路があんの? あまりのショックにその場に立ち止まり、地図やらスマホで調べるが、この先はただの県道。

県道が通れないって、遠くに見えるあの橋が渡れないって、どーゆーこと?

駅からここまで走ってきて、まったくこんな標識も注意書きも見当たらなかった。

いよいよ橋を渡って後半戦、という所までやってきてこの仕打ちだ。再度、どーゆーこと?

地元の人に聞きたいが周囲に人の存在は全くない。

落ち着いてスマホで調べてみると、この先は「岡山ブルーライン」という道路で、昔は有料道路だったが、現在は無料になった県道らしい。

原付までは通行可能だったらしく、そのなごりで自転車、歩行者は通行できなということらしい。

まあ、下調べが足らない自分が悪いのであるが、道路上の案内も足りず、スマホの地図見てもわからず、何もかも自動車中心に成り立っていることに不満爆発。岡山県に文句言ってやる〜! プンプン! コンチクショー!

ようやく状況を理解できてとりあえず納得。さて、どうするか。

考えられる手段は3つ。

@強行突破(たいした距離じゃないし、交通量も少ないので、あっという間に渡れるさ。でも車のドライバーにすぐ通報されるだろうな)

Aヒッチハイク(トラックにお願いして、荷台にでも乗せてもらう。これが一番簡単かな。でも、いつまで待てばトラックが来るのか)

B戻る(やりたくないし、くやしいし、周回にならないし、同じ道もどりたくないし・・・一番やりたくないよね、サイクリストは)

よーく考えた結果、やはりいい歳したおじさんが、強行突破や、ヒッチハイクというわけには行かず、大人の判断で戻ることに・・・

まあ、もともとポタリングだし、警察沙汰になっても大変だし・・・と諦めるが、橋を目の前に悔しさは半端ではなかった。

しかたなく、とぼとぼと同じ道を戻ることに。やっぱりつまんないね、戻るって。

そんなわけで、予定より早めに西片上の街にやってきた。

そして本日の宿はここ → 「ゑびすや 荒木旅館 」 

安政3年(1856)創業。旧山陽道片上宿の街道筋に面した備前焼の宿。江戸期には米の廻船問屋として繁栄していた。

多くの文化人、著名人、作家が訪れ、美空ひばりや島倉千代子のディナ―ショーも行われたという。

屋久杉を用いた天井、栃の木の床柱、中庭に置かれた江戸時代の備前焼の置物など、とにかく何もかも歴史のあるものばかりだ。

料理は、瀬戸内の海の幸、季節の素材を用いた手造り会席膳。

年輪を感じさせるテーブルと、備前焼に盛られた料理がより雰囲気を醸し出す。

当然、いただくのはエビスビールしかないでしょう。

本日の宿泊客は自分一人。

来週は、備前焼まつりが行われるため、すでに満室らしいが、今日はなんと、こんな宿を独り占めだ。

贅沢な時間が過ぎる。

今までの宿では感じたことのない、時の重みをひしひしと感じる。

街では一番古い建築物になってしまったらしい。

司馬遼太郎が訪れた際に、絶対にこの建物は壊さず維持したほうがいい、と強く言われたらしい。

女将に聞けば、毎日何かしらの修理、補修をしているそうで、今年の台風の多さににはかなり参った様子であった。

たしかに、屋根の一部にはブルーシートがかけられていて、今も修理中だということがよくわかった。

外人客も多いのか、風呂場には英語で風呂の入り方が書いてあった。

美しく、そして丁寧に維持された建物は本当に素晴らしい。眺めているだけでも芸術的な価値がある。

廊下を歩くと微かにきしむ、その音に心が癒される。

これ以上ない、本当に贅沢な時をゆっくりと味わいながら床についた。

 


備前焼とは・・・

釉薬(うわくすり)は一切使用せず、絵付けもしない。土の形を整え、ただ焼く。
不愛想ともとれるその容姿とは裏腹に限りない魅力を放ち手作りのぬくもりの感じられる焼き物です。

備前は、日本の六古窯といわれている瀬戸・常滑・丹波・越前・信楽・備前のなかでも、もっとも古い窯場と言えます。
須恵器の時代から備前焼になり、無釉焼き締めの伝統を守りつづけ、一千年の間、窯の火は絶やしたことがないのが備前焼です。
良質の陶土で一点づつ成形し、乾燥させたのち、絵付けもせず釉薬も使わずそのまま焼いたもので、土味がよく表れています。


翌日。

台風も通り過ぎ、穏やかな晴天が広がる。障子越しの朝日がまぶしい。

朝食は別の部屋に案内された。やはり、こうした部屋は落ち着く。

何もかも、本当の日本の良さが残っている宿だ。女将の応対も、雰囲気も、時の流れも、そして料理も器も素晴らしい。

泊まってよかった、と本当に心から思える数少ない宿だろう。

いつかまた来れることを願いながら、さあ出発しよう。



 

(2016/10/5 走行)


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