峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’2001 >  乙見山峠


長野県北安曇郡小谷村/新潟県中頚城郡妙高高原(標高1640m)
小谷村の小谷温泉と妙高高原町の笹ケ峰を結ぶ自動車道が越える。戦国時代には、すでに利用されていたといわれる。明治の初期までは松尾峠と呼ばれていたが、乙妻山がよく見えるので、地元では乙見山という名があり、それが乙見山峠になったとされる。



峠越えのイメージを抱くときに、真っ先に頭の中に浮かんでくるのがこの乙見山峠だ。

長い距離をかけて地道を登り、一つの峠を目指す。

ピークのトンネルを越えると、トンネルの先には明るい景色が広がり、これから下るダウンヒルが開けてくる。そんな伝統的な峠越えのイメージを味わえるのがこの峠だ。

いつかまた訪れたいと思っていた。あの美しい紅葉をまた見たいと思っていた。

思い切って旅立った。

準備に時間をかける余裕もなく、車に適当に放り込んで野尻湖目指して走った。
車を道の駅「しなの」にデポする。

これから一泊二日のツーリングの始まりだ。


荷物がやたら重く、走り始めは体が重い。

少しでも負担を軽くしようと、リュックをサドルに巻きつけ、臨時のサドルバッグへと変身させる。

道はきれいな完全舗装で、1.5の細身のタイヤに履き替えてきたおかげで、登りもそれほど苦にはならない。

8年前の思い出が少しづつ蘇ってくる。確かそのときは、大きな鍋を積んだ早稲田のフル装備の面々が我々の前を元気に走っていたのを記憶している。
当時に比べ、周囲の景色は変化してしまったが、雰囲気のある峠路、妙高、黒姫の眺めは昔のままだ。

行き交う車も少なく、次第に色を帯びていく紅葉に気持ちが高まっていく。五八木からは、野尻湖を眼下に展望が広がる。
 


乙見山峠までは、かなり長いアプローチが必要である。このとにかく長いアプローチが魅力でもある。

ゆっくり時間をかけ、雰囲気を満喫して峠に到達することが最大の楽しみだ。

峠まで一気に登ってはいけない。途中の仙人池で早めの昼食を楽しむ。

誰もいない仙人池をまずは一周してみる。8年前もここで同じように休憩した。当時と同じように、落ち葉が池の周囲を敷き詰め、風もなく、水面が鏡のように周囲を写し出している。

幸せなひと時だ。鍋をつつき、静かにビールを楽しむ。

ガスの音がなければ、まるで時間が止まってしまったかのような静けさだ。すでに標高も1300mを越えていて、休むとすぐに体も冷えてくる。
 


いつもならば長いこと昼飯に時間をかけるのであるが、いよいよこれから笹ヶ峰、そして峠越えとなると、ここですっかりできあがってしまうわけにはいかない。

再び舗装路に出て、登り始める。そして笹ヶ峰。いいところだ。そして美しい。

広々とした牧場に牛が何頭も放たれ、のんびりと草を食べている。笹ヶ峰を過ぎると、いよいよ道もダートへと変わる。しかし、よく締まった走りやすく、きれいなダートだ。

落ち葉が路肩に積もり、色づいた峠路は素晴らしい雰囲気を演出してくれる。

延々と登り続けてきても、決してその長さを感じさせないほど、峠越えを味わえる。これがこの時期の乙見山峠の魅力であろう。

そんな雰囲気の中、峠のトンネルは昔の面影もなく、改修され、いかにも人工的で味気がないのは残念である。


しかし、トンネルを抜けるとそこには思い出深い景色が目の前に広がっていた。

当時を思い出させる「長野県」の標識、その先に広がるパノラマ、そして雨飾山の美しさ。再び同じ景色を目の前にして、また訪れることができた喜びに胸が一杯であった。

スタートしてから約6時間が過ぎていた。

いつまでもこの景色を眺めていたい気持ちを惜しみつつ、峠に別れを告げる。峠からは、小谷温泉へ下る道が、白く、紅葉の山肌を縫うように続いている。

ここから本日の宿、下里瀬温泉まで1000m以上のダウンヒルが始まる。時刻も迫り、気を引き締め下りに取り掛かる。路面は、非常に走りやすく、最高のダートが続く。

舗装間近に整備された路面は、細身のタイヤでも何ら不安はなく、逆にダートの下りを期待していただけに残念であった。


道もやがて舗装に変わり、小谷温泉を過ぎ、一気に大糸線まで下る。16時40分、下里瀬温泉に到着。

翌日は国道を南下し、白馬駅から「大出の吊橋」を目指す。半年前に来た時には天気も良く、残雪の北アルプスが素晴らしかったが、今日はこれから天気が崩れるという。

スタートしてすぐにGPSの具合がおかしくなった。昨日は一日中快調にログを残してくれたのだが、気がつくと画面が消えている。

電源を入れても、すぐにまた消えてしまう。電池かと思いコンビニで入れ替えるが、やはり同じ。

しばし悪戦苦闘したのだが、結局あきらめる。何か接触がおかしくなったのかもしれない。

今日のルートも長い。嶺方峠を越え、戸隠を抜け、黒姫へ下らなければならない。

 


標高差も1200mほどある。プランニングの時から、かなり辛いのは承知であったが、なんとか走りきれるだろうと考えていた。

やがてポツポツと雨が降り始めた。

「大出の吊橋」からは嶺方峠へのきつい登りが始まる。昔の馬蹄形のトンネルから見た残雪の北アルプスの絶景を期待していたのだが、この天気では望めそうもない。

雨具を着てのヒルクライムは嫌なものだ。体温調節ができず、しばしばオーバーヒート気味になってしまう。

前日の疲労もあり、この冴えない天候の中ペースもあがらず、頼りは高度計の数字だけとなった。

昨日とは打って変わって、辛く、そして峠のトンネルが待ち遠しい登りになった。雨を避けるようにトンネルに逃げ込んだ。

雨具を脱ぎ、全身を冷やす。今日は時間に余裕がなく、すぐに下りに入った。
雨は強くはならないものの、このまま止みそうにない。


今日一日降られるかと思うと気が重い。

このあたりもなかなかきれいな色づきで、晴れていればさらに鮮やかに映えるのだろうが、この天気では止まってカメラを出す気にもならない。

次第に靴も濡れ始め、ますます状況は厳しくなってきた。

400下り、戸隠へ向け再び登り返す。すでにかなり疲労しており、日没を計算すると時間的な余裕がない。

雨宿りを兼ねて昼食にする。冷えた体に暖かい缶詰とビールで、しばしの休息を取る。

しかし、いよいよ戸隠中社への登りで、時間切れとなった。

あとは下りのみであり、あと1時間早ければ十分に下っていけるのだが、体力的にも限界で、タクシー輪行となった。

車で走っても、デポ地まではかなり距離があり、まともに走らなくて正解だったと思った。

車に戻り、ようやく雨から解放され、生き返った心地がした。

 

 


 

距離: 58.3 km 
所要時間: 7 時間 58 分 59 秒
平均速度: 毎時 7.3 km
最小標高: 452 m
最大標高: 1522 m
累積標高(登り): 1163 m
累積標高(下り): 1417 m


 


 

距離: 54.4 km 
所要時間: 7 時間 45 分 5 秒
平均速度: 毎時 7.0 km
最小標高: 429 m
最大標高: 1181 m
累積標高(登り): 1509 m
累積標高(下り): 757 m

(2001/10/21-22 走行)


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