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角間峠:長野県小県郡真田町/群馬県吾妻郡嬬恋村(標高1804m)
角間山と湯ノ丸山の鞍部。東斜面は鹿沢高原となる。



翌日も晴れ渡った。

早朝の車坂峠からは、富士山を始め南アルプス、佐久地方の山々が見渡せる。
 


誰もいない静かな車坂峠で、あらためて記念撮影だ。

何度来ても変わらぬ峠の標。やはり2000m級の峠は、手応えも眺めも一級品だった。
 


最高の気分の中、車坂峠を後にして地蔵峠へと向かう。

昨日と違って、朝から車が多く、その巻き上げる砂埃が辛い。
 


高峰温泉を過ぎ、100m登り返す。この登りも結構つらく、ほとんど歩いて池の平へ出る。

 


標高2000mに広がるこの湿原は、晩秋の静かな姿を見せてくれる。

木道を歩いて湿原の散策に行く。池にはすでに薄氷が張っていて、冬の訪れを感じさせる。
 

 
地蔵峠まで下る。ここもすっかり様変わりしてしまった。

変わらず残っていたのはお地蔵様だけであった。


軽い食事をとろうと思ったが、どこも休み。そのまま旧鹿沢温泉を目指す。

気持ちよく下っていくと、民宿・食事の看板。ここで腹ごしらえをしておく。
 

 
地図を眺めていると、ちょうどここから角間峠へ至るルートが分岐していることに気づく。

詳しい話を聞くと、1時間ほどで峠へ行けるらしい。旧鹿沢温泉から登るより楽だ。


しかし、峠を越え、角間温泉へ抜けるという人はほとんどいないらしい。

ゲートを抜けスキー場へ出る。誰もいない静かな林道を進む。

 

 
ふと気がつくと、ダートの中に、MTBのタイヤ跡らしきものを見つける。

タイヤ跡の痕跡からして、間違いなく自転車。それも今日付いたものだ。

むむ、まさかこんな所誰もこないだろうと思っていたが、先客がいたか。
 

 
ふわふわの芝の中を歩いていく。そして階段が現れる。

降りてきたハイカーに様子を聞くと、峠はすぐだが階段が続くらしい。

 

しばらく担いだりして進むと、牛止めの柵にでくわす。

自転車がなければなんともない柵だが、コの字型に作られた柵を通過するのに苦労する。

 

鹿沢温泉からの道と合流した後は乗車可能な山道に変わる。

熊笹の緑が鮮やかな中、もうひと頑張りで角間峠に出る。

もっと苦労するものかと思っていたが、あっけなく峠に出てしまった。
 

 
広く、明るい峠は静かで、訪れる人は誰もいなかった。

展望は効かないが角間山と湯ノ丸山の鞍部に位置する峠は、角間温泉へと下る道と交差する 、峠らしい雰囲気を感じさせる。

峠越えに備えて腹ごしらえをしてきたのだが、それも必要なかった。

この先はもうほとんど食料も必要ないので、のんびりとつまみを取り出す。

 


風もない、誰もいない静かな峠に、ガスストーブの音だけが響き渡る。

缶詰を暖め、再びもつ鍋を味わう。幸せな瞬間だ。


見上げれば、澄み渡る青空に向かって、枝を広げる木々。

その色といい形といい、冬の訪れを真近にしたその美しさを見せている。


できればこの芝の上で、のんびりと昼寝をしたい気分だ。

大地にひっくり返り、大空を見ながら昼寝できたら、さぞかし気分のいいことだろう。
 


いよいよ日が傾き始めた。

風が冷たくなり、早く下山しなさいよと山の神が言っている。秋の日の午後は本当に短い。

いよいよ角間峠を下る時間がやってきた。防寒対策をして山道を下り始める。

 


下り始めは、道幅もそこそこあって楽しく下ることができる。

しかし、すぐに熊笹が行く手を阻むように生い茂ってくる。


しだいに下が見えないぐらいに覆われ、バリバリ音を立てながら降りていく。

路面には枯れ枝が転がっており、運悪く乗り上げたりすれば、簡単にフロントをもっていかれる。
 


転がっても転落するほどの所ではないが、無傷では済みそうもないので慎重に路面を見極める。

地図にあるようにタイトターンが連続し、とてもじゃないがランドナーでは乗車不可能。


フラットハンドルでも、かなりのテクニックがないとクリアすることはできない。

路面を見て乗車を試みるが、無理をすればすぐに転倒しそうなその状況に、乗ったり降りたりの連続となる。
 


やがて、崩落個所に出くわす。

この崩落は行く前から情報を得ていたが、実際の現場はかなり危険な状況になっていた。

長さ約20mに渡って崩れ落ちており、下は50m程の高低さで崩れている。


足場は砂地で、ほとんどグリップしてくれない。

わずかに踏み跡が残されているが、踏み入れるとずるずると崩れてしまうという状況だ。
 


周囲には掴める木々はまったくなく、もし足を滑らせたら、間違いなく真っさかさまに転落する。

空身で越えるのでさえ緊張するのに、ここを自転車を担いで渡るというのは、かつてないほど緊張する。


バランスを崩さぬよう、ペダルが斜面に当たらぬよう、確かなグリップを得てから足を踏み出す。

下を見ず、前を見よう、色々と自分に言い聞かせながら一歩一歩足を運ぶ。

そして自転車を降ろせた時、身震いがした。
 


その後も乗車率はほとんど上がらない。

地面には大きな石も現われ始め、ますます転倒の危険が高まってくる。
 

倒木やら、葉っぱ、小枝等がホイールにからまり、異音が耳に入れば取り除く。

またサドルにまたがり、段差があれば降りるといった状態がしばらく続く。
 


MTBの極太タイヤで、ヘルメット、プロテクター完全装備であればもっと下りを楽しめるだろう。

しかし、38Bにガードもトウクリップもついた自転車ではまるで役に立たない。
 

赤茶色の沢を何度か渡ると、ようやく山道も安定してくる。

角間渓谷沿いに、遅い紅葉を楽しみながら下ると角間温泉に飛び出る。

 

 
出会った上田在住のサイクリストに、角間越えの談義をした後、車のデポ地まで快適に下る。

すっかり冷え切った体を、真田温泉で温める。


露天に浸かりながら、この2日間を振り返る。

思わずため息が出てくる。充実した晩秋ツーリングであった。
 

 


 

距離: 23.7 km
所要時間: 0 時間 00 分 00 秒
平均速度: 毎時 0.0 km
最小標高: 682 m
最大標高: 2059 m
累積標高(登り): 341 m
累積標高(下り): 1629 m

(1998/11/15 走行)


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