峠への招待 > ツーリングフォトガイド >  ’1996 >  風の盆・越中八尾周回




「おわら風の盆」をいつか見てみたいと思っていた。

しかし、さすがに東京からは遠く、なかなかその機会は訪れなかった。


今年も9月になって遅めの夏休みをとった。どこへ行こうかと、いろいろと悩んでいた。

おわら風の盆」は9月3日が最終日。今日出発すれば夜には間に合う。


車にキャンプ道具、そしてランドナーとMTBを積み込む。

そして八尾周辺のツーリングコースが載っているニューサイを持って東京を出発した。


郡上八幡の郡上踊りを見てから、夏の踊りに魅せられた。その美しさは見た者でしか味わえない。

やっぱり「おわら風の盆」を見たい・・・その思いが富山への旅の原動力になった。
 

1996年9月3日(火)
(東京 〜 越中八尾)


さすがに遠かった。延々高速道路を走って、走って、走り続けた。

遠ければ遠いほど思いが深まる。

初めて訪れる地は胸が高まる。果たしてどんな所なのだろうか。


すっかり暗くなるころ、やっと越中八尾の街にたどり着いた。

全く土地勘のないところ。越中八尾駅前の公園に車を置いて、人の流れについて歩く。


とうとうやってきた風の盆。もう、それだけで感動していた。

凄い人の数だ。町中が人で溢れている。しかし騒がしくない。

なんだこの感覚は? 郡上八幡の町とは雰囲気が違う。
 


町の中心部に近づくと、もうそこは夢のような世界。

この暖かい灯りと、日本の美しい伝統美に囲まれる。
 


坂の町、越中八尾。幻想的で優美な舞。

編み笠を目深にかぶり、哀調を帯びた胡弓や三味線の音色に合わせ、町中を優雅にゆったりと踊り流す。
 


忙しく過ごす日々の世界からかけ離れた、ゆっくりとした時が流れる。

これが同じ日本の光景なのか? こんな夢のような時間があるのだろうか、というぐらい心洗われる踊りだ。


あぁ、やっぱり来てよかった・・・もう言葉が出ない。なぜが涙まで流れてくるほどだ。

いい、本当にいい。とにかく美しい。
 


別格だった「おわら風の盆」。完全に放心状態で車に戻ってきた。

素晴らしい旅のスタートになった。もう、今日一日だけでこの旅は大成功になった。


今日のねぐらは、越中八尾駅そばの公園。

うまい具合に車を入れられて、東屋にベンチまであるという極上の場所。


周囲に迷惑になるような状況もなく、今宵はここで楽しくキャンプのひと時となった。

ふかふかの草地の上に一人用テントを張り、この日はぐっすり眠ることができた。
 

1996年9月4日(水)
(越中八尾周回 〜 立山駅) 


翌日、夢から覚めたような静かな朝を迎えた。

昨夜のあの幻想的な風景はどこへ・・・何もかもいつもと変わらぬ街の様子に戻っていた。


今日の予定は、ニューサイのNC道案内をそのまま参考にさせてもらうことにした。

富山県はほとんど走ったことがないので、中堀氏のレポートは非常に貴重だ。

八尾の町を抜けると、すぐにツーリングの世界が始まる。
 


土地勘のない所はおとなしく走るしか手がない。

慣れた場所なら、おおよそのプランニングが頭の中で組み立てられる。


路面状況に始まり、標高差、距離感、食料事情、交通網・・・初めての地だど、これがなかなか厄介だ。

今日は、ニューサイのガイド通りに走ったほうが苦労しなくて良さそうだ。


峠を目指すコースではないので、気合の入り方も今一つ。

富山はこんな雰囲気なのか、なんて感じながらゆっくりと登り始める。


昨夜の宴はどこへ行ってしまったのか、道行く人は誰もいない。

富山の名水百選に選ばれている「桂の清水」で一息つく。
 


展望は今一つの天気だが、かなり谷深い林道を登っていく。

今日はぐるっと周回コースのため、眼下に帰りのコースがよく見える。
 


厳しいところは特にないが、山側が大きく崩れ工事中の所があった。

車では通行できないが、やはり自転車は通してもらえた。
 


本日のピーク、標高555m地点を過ぎて下りに入る。

室牧ダム沿いの道は静かで、くねくねと蛇行する道から眺めるダム湖が神秘的に見える。
 


室牧ダムを後にすると、すぐその先に「下ノ茗温泉」の入り口を見つけた。

時間もあるので、ちょっと立ち寄ってみる。こんなところに温泉があるのか、という驚きだ。

行き着いた先には、それはそれは立派な玄関が待ち構えていた。


歴史と伝統を感じる温泉宿の雰囲気が漂っている。

温泉には入らなかったが、ここで休憩させてもらう。

お客さんの姿は見えなかったが、きっと風の盆で昨日までは賑やかっだのだろう。


Wikipediaより

1996年(平成8年)頃から客足が落ち込み始め、一軒宿も消防法により三階が使えなくなるなど不便となり、1999年(平成11年)2月12日までに富山地方裁判所へ自己破産を申請し廃業、閉鎖された。負債総額は約12億円だった。現在は廃墟となっており、車の乗り入れも出来ない。


現在ネットでこの温泉を検索すると、見るに耐えない廃墟と化した姿がたくさん見つかる。

この素晴らしい玄関が無残に朽ち落ち、荒れ果てた建物の姿が公開されている。

あまりに無残で悲しい。


そこで、ここに在りし日の「下ノ茗温泉」の美しい姿を残しておきたく、大きな画像で紹介する。

1996年から客足が落ち込み始めたと書いてある。

何の縁だろうか、この写真が本当に最後の姿だったのかもしれない。
 


ゆっくり走って八尾の町に戻ってきた。

坂の町から、手頃な山間部を走り抜け、ダムや温泉を巡って戻ってきた。


距離は短かったが、結構内容が濃いコースであった。

「おわら風の盆」と越中八尾を巡る、大満足の二日間であった。


 


車に戻って、一気に立山ケーブルカーの立山駅まで移動する。

駅の駐車場脇がちょうど寝るのに最適だ。誰もいない夜中に一人静かにキャンプを楽しむ。

ここなら明日の始発に間に合う。こんな芸当、カーサイキャンピングでなければできない。
 

 

 

距離: 39.5 km
所要時間:   時間    分    秒
平均速度: 毎時    km
最小標高:   66 m
最大標高: 555 m
累積標高(登り): 697 m
累積標高(下り): 697 m

(1996/9/3〜4 走行)


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